SSブログ
RSS [RSS1.0] [RSS2.0]
共謀罪を含む改悪組織犯罪処罰法は
【「共謀罪」法 衆参両院議員の投票行動(東京新聞 2017/6/16)】

安全配慮義務:電通事件

『最高裁判所判例集 損害賠償請求事件(通称 電通損害賠償)』を読んで
次の部分(私の判断で一部を強調表示した)

 二 Bの性格を理由とする減額について
 1 原審は、Bには、前記のようなうつ病親和性ないし病前性格があったところ、このような性格は、一般社会では美徳とされるものではあるが、結果として、Bの業務を増やし、その処理を遅らせ、その遂行に関する時間配分を不適切なものとし、Bの責任ではない業務の結果についても自分の責任ではないかと思い悩む状況を生じさせるなどの面があったことを否定できないのであって、前記性格及びこれに基づくBの業務遂行の態様等が、うつ病り患による自殺という損害の発生及び拡大に寄与しているというべきであるから、一審被告の賠償すべき額を決定するに当たり、民法七二二条二項の規定を類推適用し、これらをBの心因的要因としてしんしゃくすべきであると判断した。
 2 身体に対する加害行為を原因とする被害者の損害賠償請求において、裁判所は、加害者の賠償すべき額を決定するに当たり、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度でしんしゃくすることができる(最高裁昭和五九年(オ)第三三号同六三年四月二一日第一小法廷判決・民集四二巻四号二四三頁参照)。この趣旨は、労働者の業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求においても、基本的に同様に解すべきものである。しかしながら、企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきものということができる。しかも、使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができるのである。したがって、【要旨2】労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできないというべきである。
 これを本件について見ると、Bの性格は、一般の社会人の中にしばしば見られるものの一つであって、Bの上司であるDらは、Bの従事する業務との関係で、その性格を積極的に評価していたというのである。そうすると、Bの性格は、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったと認めることはできないから、一審被告の賠償すべき額を決定するに当たり、Bの前記のような性格及びこれに基づく業務遂行の態様等をしんしゃくすることはできないというべきである。この点に関する原審の前記判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。

 うつ病になりやすい人となりにくい人がいることは知っていたし、人の性格の形成には育った環境の影響だけでなく遺伝の影響があることも知っていた。最近では、うつ病になった人の中にも遺伝要因で自殺しやすい人としにくい人がいるらしいことも知った(参照)
 私は環境要因を重視する傾向があり、過労自殺のニュースを見聞きする度に自殺に至るような環境を放置した会社に腹を立てていた。自殺する前にうつ病になっていることが多そうなので、社員をうつ病にさせてしまう環境を放置した会社に腹を立てていた。しかし、うつ病になりやすい人やなりにくい人がいて、自殺しやすい人やしにくい人がいる状態で、会社はどのような環境を整備すればいいのだろうか。最もうつ病になりやすい人に合わせて環境を整えるべきか、平均的な人に合わせて環境を整えるべきか。例えば、過労による自殺の労災認定基準(追記(2007/5/8):【精神障害等の労災認定について】)はどのような人に合わせて作るべきなのか。
 うつ病になりやすい人がいて、社員がうつ病になりにくい環境を整備することには限界があるとしたら、うつ病になった社員が自殺しないように環境を整備する必要があるのだろう。そう考えることにした後に、会社の責任について司法ではどのように判断しているか知りたくなって調べてみた。
 まず、裁判所のサイトに載っている判例の中から「安全配慮義務」「労災」「うつ病」などをキーワードにして検索して抽出した。

  • 安全配慮義務や労災に関する判例リスト(うつ病、いじめ)
    【hanrei001.xls】(42KB、2007/5/4作製、5/4更新)

 この中では【事件番号「平成10(オ)217」(電通損害賠償)】が有名らしい。Googleでも【電通事件】で検索すると事件や裁判の様子を詳しく知ることができそうである。
 判決文にはBさんが自殺に至る経緯が記載されているが、「いるよなぁ。私も…」とか「このままじゃ危ないよなぁ」とか思いながら読んでいた。少し前に「自己責任」という言葉が流行ったが、そのような観点で感想を書く人がたくさんいそうな経緯である。裁判での電通側の抵抗もそんな感じだったらしい。『弁護士費用以外の損害額のうち三割を減じた』東京高裁の判決も、その抵抗の成果だろう。その高裁判決を最高裁は『是認することができない』と判断した。その理由が冒頭に引用した部分である。
 うつ病親和性ないし病前性格があったとしても、労働者の性格が多様なのは当然だから、雇用する側はその労働者の性格に合わせて適材適所に配置しなければいけないということだろう。最高裁は『その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきもの』とまで述べている。予想できたのだから対処すべきだったということだろう。ただし、条件が付いている。

ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、
労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、
Bの性格は、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったと認めることはできないから、

 『通常想定される範囲』はどのようなものだろうか。範囲が狭ければ企業は責任を問われにくくなる。遺伝要因が絡んだ場合はどうなるだろうか。個人の遺伝情報を企業が知ることはできないし知ろうとすることは許されないだろう。
 冒頭に引用した部分は「社員がうつ病にかかる前」の企業の環境整備に関して述べたものだろう。しかし、判決では「社員がうつ病にかかった後」の企業の責任が重視されているような気がする。

 【要旨1】原審は、右経過に加えて、うつ病の発症等に関する前記の知見を考慮し、Bの業務の遂行とそのうつ病り患による自殺との間には相当因果関係があるとした上、Bの上司であるD及びEには、Bが恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らなかったことにつき過失があるとして、一審被告の民法七一五条に基づく損害賠償責任を肯定したものであって、その判断は正当として是認することができる。

 Bさんの『健康状態が悪化していることを認識』していなかったので『負担を軽減させるための措置を採らなかった』としたら電通に過失はなかったのだろうか。冒頭に引用した部分だけを読むと社員がうつ病になる前の環境整備が不十分だと「過失がある」とされそうだが、判決文に『その健康状態が悪化していることを認識しながら』が含まれているために確信できない。社員の健康管理のための環境が整えられた上で、社員の健康状態の悪化を認識できず、その社員の負担軽減措置を取らなかった場合は、「過失はない」とされるか「過失がある」とされても僅かになりそうである。しかし社員の『健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らなかった』ら会社に「過失がある」のは確かだろう。会社の対応も、そちら(社員の健康状態が悪化した後の対応)を重視していそうである。科学的にも、そちらの方が合理的だろう。

 さて、リストアップした判例(【hanrei001.xls】)の中では、まだ【電通事件】しか読んでいない。他の判例も読んで考えを深めたい。また、生徒の「いじめ自殺」前の学校の対応についても、安全配慮義務ということでは、社員の「過労自殺」前の会社の対応と同様に考えることができそうだから、判例を読んでみたい。その後で、新たに思うことがあったらブログに書こうと思う。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
カテゴリー:サイトを見て

読者の反応

nice! 0

sonet-asin-area

コメント 0

コメントの受付は締め切りました

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました