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共謀罪を含む改悪組織犯罪処罰法は
【「共謀罪」法 衆参両院議員の投票行動(東京新聞 2017/6/16)】

安全配慮義務:オタフクソース

『労働事件裁判例集 オタフクソース損害賠償』を読んで

 【電通事件の判決】について感想を述べた【安全配慮義務:電通事件】を補足できそうな判例である。裁判所の判例集では事件名に「オタフクソース損害賠償」と会社名が載っていて、重要な判決だったのだろう。なお、平成12年03月24日判決の「電通事件」は最高裁判決後に和解が成立していて、平成12年05月18日判決の「オタフクソース事件」では被告のオタフクソースと関連会社のイシモト食品が控訴を取り下げて原告勝訴が確定したようである。

 【安全配慮義務:電通事件】では、「Bさんの『健康状態が悪化していることを認識』していなかったので『負担を軽減させるための措置を採らなかった』としたら電通に過失はなかったのだろうか。」と書いたのだが、【事件番号「平成8(ワ)1464等」(オタフクソース損害賠償)】では、認識していなくても「過失がある」とされたようである。

(二) 被告らの安全配慮義務違反の過失の有無
(1) 平成七年夏における本件作業所の作業環境は劣悪であり、作業員が身体的慢性疲労の状態を生じやすくなっており、被告らはこれを認識することが可能であったこと。
(中略)
(2) Fにはケアレスミスが多く、そのような中で特注ソース等製造部門のリーダー的存在であったDが配転されたため、次のリーダー役となるAの心身の負担が増大したが、これも被告らは予見することが可能であったこと。
(中略)
(3) 九月二〇日以降においてAがB係長やC次長に対して申し出た内容は一般的には理解し難い内容であり、この時点でC次長らはAの心身の変調を疑い、同僚や家族に対してAの日常の言動を調査して然るべき対応をすべきであったこと。
[1] Aは上司であるC次長及びB係長に対して九月二〇日以降何度もFらに対する教え方が分からないと訴えている。また、C次長及びB係長に対して「辞めたい」旨を伝えている。特に九月二八日にはAとC次長及びB係長とで約二時間にわたってAの辞意についての話合いが行われている。これらの機会においてAが訴えたことは具体性、合理性のあるものではなく、一〇月一日からは特注ソース等製造部門を離れることが決定しているにもかかわらず、C次長らの「特注ソースの失敗はAの責任ではない。」「教える必要はない。」「辞めてどうするのか。」「休んでもよい。」「営業の手伝いに出てもよい。」との説得に対して「教え方が分からない。」「辞めたい」と繰り返すのみであった。
[2] Aのこのような応答は通常では考え難いことであり、Fが業務上の失敗を繰り返すことからDがFに対して二度にわたって暴行を加えるといった事実があり、Dにおいて、自分が去った後の特注ソース等製造部門がスムースに回転することは困難であると考えて本件作業所の様子を見にゆき、あるいはK副本部長に対して善処するよう進言している。C次長らは、Dらの上司としてその経緯も承知し、あるいは知りうる立場にあったのであるし、本件作業所の夏場における作業環境が過酷なものであることは分かっていたのであるから、Aの心身の故障を疑い、同僚や家族に対してAの勤務時間内や家庭内における言動、状況について事情を聴取すべき義務があったものというべきである。
[3] そして、C次長らにおいて右の調査を行っていれば、Aが職場の同僚に対して「ノイローゼかも知れない。」と洩らしており、様子も暗い感じに変化してきていること、家庭においては著しく疲れた様子であり、原告が会社を休むよう勧めても「ソースができない。」などと述べて無理に出勤していること、原告はAの心の病を疑って神経科を受診させることを考えていることが判明したはずであるそうすれば、被告らにおいてAを直ちに特注ソース等製造部門から外し、あるいは医師の治療を受けさせるなどの適宜の措置をとることができ、本件事故の発生はこれを防止することができたと考えられる。
(4) 以上のとおり、被告らはそれぞれに要求された安全配慮義務を怠った過失により、労働契約上の債務不履行責任(民法四一五条)及び不法行為責任(同法七〇九条、七一五条、七一九条)を負っており、Aが被った損害について損害を賠償する義務があるというべきである。

 被告らは『仮に、Aがうつ的状態を呈していたとしても、被告らはそのような事実は知らなかったし、これを知る可能性もなかった』と主張していたが、広島地裁は『Aの心身の変調を疑い、同僚や家族に対してAの日常の言動を調査して然るべき対応をすべきであった』から「過失がある」としたようである。「知らなかった」では済まないということだろう。ただ、Aさんがサインを出していたのに無視をしたことで「過失がある」とされたわけだから、社員がサインを出さずに突然自殺した場合は違う判決になるかもしれない。通常は何らかのサインを出しているはずだから、そのサインが気付けるものだったか否かが判決に影響しそうである。

 また、【安全配慮義務:電通事件】では、「遺伝要因が絡んだ場合はどうなるだろうか。」と書いたのだが、【事件番号「平成8(ワ)1464等」(オタフクソース損害賠償)】では、遺伝要因も考慮していそうである。

4 Aがうつ病を発症した原因
(一)
(中略)
(二) M医師はその意見書において精神障害の発生には多因子的要因が複雑に絡んでいるとし、Aの性格がメランコリー型性格(秩序を重んじ、誠実な真面目人間、融通がきかない)、執着性格の傾向が強いことを指摘し、Aのうつ病は内因(生物学的要因)性うつ病の疑いと診断している。
 Aの性格についてはM医師の指摘するような点が存在し、したがって、Aがうつ病を発症するについては同人の性格が影響している可能性は否定できない。しかしながら、Aには精神疾患の既往歴はなく、同人の家族に精神疾患の既往歴のある者がいることを認めるべき証拠はない(父親の死因が脳内出血であることは前述のとおりである。)。したがって、Aの性格がうつ病発症の一因であるとしても、その大きな部分を占めるのは業務に起因する慢性的疲労並びに職場における人員配置の変更とこれに伴う精神的、身体的負荷の増大であるというべきであるから、うつ病発症の業務起因性はこれを肯定することができる。

 家族の精神疾患既往歴に触れているのは遺伝要因を考慮しているからだろう。その上で『既往歴のある者がいることを認めるべき証拠はない』として発症の原因として遺伝要因を小さく見積もり、環境要因を重視している。本人や家族に精神疾患の既往歴があると違う判決になるかもしれない。

 過失相殺に関しては【事件番号「平成10(オ)217」(電通損害賠償)】と同様である。

6 過失相殺について
(一) 被告らは、Aは自己の健康の維持・管理に努め、異常を感じた場合には進んで医療機関に受診し、自己の疾病に関し必要な治療を受けるべき義務(自己保健義務)を負っていたにもかかわらず、Aがこれを怠ったためにうつ病に罹患し、自殺するに至ったのであり、これを斟酌して過失相殺をすべきであると主張する。
(二) Aがうつ病に罹患した後においては、疾病の性質からして、精神神経科を受診しなかったこと及び自殺に至ったことをAの過失と認めるのは相当でない
 過失があるかどうかについて次に問題となるのは、本件においてはうつ病発症の前段階として心身の慢性的疲労状態が存在したと考えられるところ、そのような状態に至るについてAの側にも何らかの原因があったと認められるかという点である。しかし、業務外においてAに心身の慢性疲労を生じさせるような原因があったことを認めるに足りる証拠はない。また、業務上の間題については、C次長らは、本件作業所の夏場における過酷な職場環境はこれを承知していたし、特注ソース等製造部門のスタッフに問題があるとの指摘はDから受けており、平成七年八月にそれが原因でDがFに暴行したことは分かっていた。したがって、この観点からしてもAの過失を肯定することは困難である。
 なお、疾病の性質上、その発生にはAの性格が一定限度で寄与しているであろうことは容易に推認できるところである。ただ、先にAの身上経歴において認定したとおり、Aは少年時代、学生時代を通じて性格上の問題を周囲に感じさせることなく過ごして被告オタフクソースに入社しているのであり、したがって、Aがうつ病を発症し易い性格要素を有していたとしても、それは通常の性格傾向の一種であるにすぎず、この点をA側の事情として損害賠償請求の減額事由とすることは相当でない
(三) よって、被告らの過失相殺の主張は理由がない。

 被告側はAさんが病院に行かなかったことで「Aにも過失がある」と主張したようだが、広島地裁は『疾病の性質からして』と述べて、病院に行かなかったのも「うつ病」のせいだからAさんには過失がないと判断したのだろう。【事件番号「平成10(オ)217」(電通損害賠償)】では家族が病院に連れて行かなかったことについての過失を否定したが、こちらは本人が病院に行かなかったことについての過失を否定している。
 また、性格についても『うつ病を発症し易い性格要素を有していたとしても、それは通常の性格傾向の一種であるにすぎず』と述べて、過失相殺を認めていない。これは【事件番号「平成10(オ)217」(電通損害賠償)】と同じである。やはり『通常の性格傾向の一種』が気になる。

 さて、次は【事件番号「平成9(ワ)1194等」(三洋電機サービス損害賠償)】を読む予定である。新たに思ったことがなければブログには書かない。

追記(2007/5/5):
 【事件番号「平成9(ワ)1194等」(三洋電機サービス損害賠償)】の判決文を読んだ。別エントリーに書くほどではないが、「電通事件」や「オタフクソース事件」と異なり、過失相殺が認められた事例のようである。また、次のように自殺した本人の素因を重視している。

 以上の事実によれば,Cの自殺は,Eの病状の悪化,それにより原告らに負担をかけていることへの後ろめたさ,Eの死亡,Cの生真面目かつ完全主義的で,自分の悩みを他人に話すことを苦手とする性格,特に部下との関係を中心として,課長の職責を的確に果たせないことへの不満,上司である被告Dや妻である原告Aに自分の悩みを理解してもらえず,仕事に追い詰められていったことへの不満,精神的な支えとなっていたFの大阪への転勤等のすべてが原因となっているものと見るべきである。したがって,被告らの行為とCの自殺との間には因果関係は認められるものの,Cの昇進後の職務に対する労働が過剰な負担を課すものとはいえないこと,Cの置かれた状況において,誰もが自殺を選択するものとは言えず,本人の素因に基づく任意の選択であったという要素を否定できないことに鑑みると,Cの自殺という結果に対する寄与度については,C本人の固有のものが7割であって,被告らの行為によるものは3割であると見るのが相当である。

 この判例から得られる教訓は次のように悪意がなくても対応が悪いと過失になるということであるが、今の私の興味は「遺伝要因などの素因をどの程度考慮するのか」であるので、ここでは意見を述べるのを省略する。

 以上の事実からすれば,被告Dには,Cに対する悪意はなく,むしろCへの期待があったこと及び原告らの希望がCの勤務継続にあったことが窺われるが,被告DのCに対する対応は相当であったとはいえず,結局Cを追い詰めたものと認められる。使用者に代わって従業員に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は,前述のような使用者の注意義務の内容に従ってその権限を行使すべき義務を負うというべきであり,Cに対し,業務上の指揮監督権限を有していた被告Dには,同義務に違反した過失があるというべきである。

追記(2007/5/6):
 【事件番号「平成9(ワ)1194等」(三洋電機サービス損害賠償)】の控訴審は、事件番号「平13(ネ)1345」東京高裁、平14/7/23判決らしい)。

追記(2007/5/7):
 上の追記の情報源に対するリンクは許可が必要だったようなので消しました。判決文があったのだけど…。
 ところで、東京高裁の判決文では過失相殺の考え方に問題があると思われた。判決文があれば引用して意見を書きたいのだけど、判決文が載っていて自由に引用できるサイトがないので我慢する。浦和地裁の判決では上のように自殺への寄与度とし自殺した本人の責任を7割にしているが、過失相殺とは別。過失(5割)があったのは本人ではなく原告らになっている。東京高裁の判決では本人の病気(うつ病)も過失にしているように読めた。もしもそうなら、問題があると思う。


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