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共謀罪を含む改悪組織犯罪処罰法は
【「共謀罪」法 衆参両院議員の投票行動(東京新聞 2017/6/16)】

過労自殺の労災:トヨタ−3

『労働事件裁判例 事件番号「平成7(行ウ)11等」豊田労基署長遺族補償年金等不支給処分取消』を読んで

 【過労自殺の労災:トヨタ−2】の続き。

 名古屋高裁の判決には誤解があるようなので、やはり地裁判決の方が良いかな、ということで、精神障害による労災認定の基準に関する部分を名古屋地裁の判決文から引用する。

(ウ) ところで,前記認定のとおり,うつ病の発症メカニズムについてはいまだ決定的な見解があるわけではないが,専門検討会報告書及び判断指針は「ストレスー脆弱性」理論を採用しているところ,現在の医学的知見によれば,同理論を採用するのが合理的であると認められる。
 しかして,「ストレスー脆弱性」理論は,環境由来のストレス(業務上ないし業務以外の心身的負荷)と個体側の反応性,脆弱性(個体側の要因)との関係で精神破綻が生じるかどうかが決まるという考え方であり,ストレスが非常に強ければ個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし,逆に脆弱性が大きければストレスが小さくても破綻が生ずるとする考え方である。
 そうすると,前記の相当因果関係の判断基準である「社会通念上,当該精神疾患を発症させる一定以上の危険性」について,誰を基準として判断するかが必然的に問題となる。
 原告は,この点について,被災者本人を基準とすべきである旨主張するが,心身的負荷の大きさを被災者本人を基準として判断すると,精神障害を発症した被災者本人にとっては常にその心身的負荷は大きいものと評価されることになり,心身的負荷の大きさの問題と被災者本人の個体側の反応性,脆弱性の問題が混同されてしまうから,同主張は採用することができない
 これに対し,被告は,業務上の心身的負荷の強度は一般人を基準として客観的に評価すべきである(平均人基準説)と主張し,専門検討会報告書及び判断指針は,同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から検討すべきであるとする。
 確かに,業務上の心身的負荷の強度は,同種の労働者を基準にして客観的に判断する必要があるが,企業に雇用される労働者の性格傾向が多様なものであることはいうまでもないところ,前記「被災労働者の損害を補填するとともに,被災労働者及びその遺族の生活を保障する」との労災補償制度の趣旨に鑑みれば,同種労働者(職種,職場における地位や年齢,経験等が類似する者で,業務の軽減措置を受けることなく日常業務を遂行できる健康状態にある者)の中でその性格傾向が最も脆弱である者(ただし,同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内の者)を基準とするのが相当である。したがって,被告の主張並びに専門検討会報告書及び判断指針の見解は採用することができない
 ところで,同種労働者の中でその性格傾向が最も脆弱である者を基準とするということは,被災労働者の性格傾向が同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り,当該被災労働者を基準として,当該業務に,「社会通念上,当該精神疾患を発症させる一定程度以上の危険性」があったか否かを判断すればよいことになる(なお,これは,判断指針の,「性格傾向については,性格特徴上偏りがあると認められる場合には個体側要因として考慮するが,それまでの生活史を通じて社会適応状況に特別の問題がなければ,個体側要因として考慮する必要はない。」との見解にも合致するものである。)。
 そして,前記認定のとおり,亡P1にはこれまでの生活史を通じて社会適応状況に特別の問題はなく,うつ病親和的な性格ではあったが,正常人の通常の範囲を逸脱しているものではなく,模範的で優秀な技術者であったのであるから,亡P1の性格傾向は,同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでなかったと認められる。
 そうすると,本件においては,亡P1を基準として,当該業務がうつ病を発症させる危険性があったか否かを判断すればよいことになる。
『事件番号「平成7(行ウ)11等」名古屋地裁判決』

 長くなったが、名古屋地裁の見解を知るのに役立つと思う。一部を私の判断で強調表示した。
 判断指針は複数の業務の心理的負荷の強度を総合的に判断していてイメージしにくいので、「ストレスー脆弱性」モデルに沿って単純化して考える。
 「ストレスー脆弱性」モデルについては、厚労省のサイト内に解説のための図があったので、その図を応用して上の引用部分について解釈してみる。

 解釈する前に、「ストレスー脆弱性」モデルについて。
 図にすると次のようになる。

図1 「ストレスー脆弱性」モデル

 脆弱性が大きくなると小さな人よりも弱いストレスで発症する。脆弱性が小さい人でも強いストレスがあると発症する。これが「ストレスー脆弱性」モデルである。
 「ストレスー脆弱性」モデルで労災が認められるのはどのような場合であるべきか、原告の見解、被告(厚労省)の見解、名古屋地裁の見解を図示してみようと思う。

 まずは、原告の『被災者本人を基準とすべき』について。
 図示すると次のようになると思われる。

図2 被災者本人を基準とする労災認定モデル

 脆弱性の大きな人は脆弱性の小さい人が弱いと感じたストレスでも強く感じる。被災者本人を基準とすると、発症した事実と業務にストレス要因があれば、そのストレスは常に「強」となる。「強」であれば労災が認められるから、通常想定される範囲を外れる人でも労災が認められることになる。誰でも発症すれば労災が認められることになる。極端な例を作ると、同僚に話しかけられるだけでも強いストレスを感じる人が同僚に話しかけられて発症した場合にも労災が認められることになる。それは採用できない。それが地裁の考え方だろう。

 次に、被告の『一般人を基準として客観的に評価すべき』について。
 図示すると次のようになると思われる。

図3 一般人を基準とする労災認定モデル

 「一般人」(参照)がストレスを「強」と感じる業務で発症した場合だけ労災を認めようとするものである。図を見れば明らかだが、「一般人」よりも脆弱性の大きい人が発症した場合、労災が認められないことがある。脆弱性が通常想定される範囲内であれば、労災補償制度で被災労働者の損害をちゃんと補填して、被災労働者や遺族の生活をちゃんと保障した方が良い。被告(厚労省)の見解(判断指針)はそれができないので採用できない。それが地裁の考え方だろう。

 そこで、名古屋地裁は『同種労働者(職種,職場における地位や年齢,経験等が類似する者で,業務の軽減措置を受けることなく日常業務を遂行できる健康状態にある者)の中でその性格傾向が最も脆弱である者(ただし,同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内の者)を基準とするのが相当』と述べた。
 名古屋地裁の見解を図示すると次のようになると思われる。

図4 通常想定される範囲内で
   最も脆弱な人を基準とする労災認定モデル

 通常想定される範囲内で最も脆弱な人がストレスを「強」と感じる業務で発症した場合に労災を認めようとするものである。これならば、被災労働者が同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内であれば、労災補償制度で被災労働者の損害をちゃんと補填できて、被災労働者や遺族の生活をちゃんと保障できる。この労災認定モデルが一番良い。それが名古屋地裁の見解だろう。

 さて、具体例として亡P1のケースを名古屋地裁の労災認定モデルに当てはめてみる。

図5 亡P1のケース(地裁モデル)

 P1は、これまでの生活史から判断して、通常想定される範囲内の労働者である。そのP1が発症したのだから、P1がストレスを「強」と感じる業務か業務外の出来事があったはずである。そこでP1がストレスを「強」と感じる業務があったかどうかを調べることになる。それが『亡P1を基準として,当該業務がうつ病を発症させる危険性があったか否かを判断すればよい』の意味だろう。
 その前の段落の『同種労働者の中でその性格傾向が最も脆弱である者を基準とするということは,被災労働者の性格傾向が同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り,当該被災労働者を基準として』は「図5 亡P1のケース(地裁モデル)」を見れば、あるいは「図2 被災者本人を基準とする労災認定モデル」と比べてみれば簡単に理解できる。名古屋地裁モデルの「通常想定される範囲」内の部分は原告が主張する「被災者本人を基準とする」モデルと同じである。だから、被災者本人の性格傾向が通常想定される範囲内であれば、被災者本人を基準として判断すれば良いのである。そもそも「通常想定される範囲内で最も脆弱な者」がどのような者なのか明らかでないから、通常想定される範囲内の本人を基準にするしかない。

続き→【「労災→安全配慮義務違反」は×】


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