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共謀罪を含む改悪組織犯罪処罰法は
【「共謀罪」法 衆参両院議員の投票行動(東京新聞 2017/6/16)】

「労災→安全配慮義務違反」は×

『労働事件裁判例 事件番号「平成7(行ウ)11等」豊田労基署長遺族補償年金等不支給処分取消』を読んで

 昭和63年8月26日に起こったトヨタ自動車社員の過労自殺を巡る裁判の判決を読んで【過労自殺の労災認定基準は?】【過労自殺の労災:トヨタ−1】【過労自殺の労災:トヨタ−2】【過労自殺の労災:トヨタ−3】と感想を書いてきたのだが、そもそも私が知りたかったのは「うつ病になりやすい人」や「自殺しやすい人」がちゃんと労災認定されるかどうかだった。労災認定基準については文句を言うことはあってもちゃんと考えたことはなかった。しかし、最近になって遺伝子レベルで「うつ病になりやすい人」「自殺しやすい人」が明らかになりそうなことを知って、ちゃんと考えておいた方が良いような気がして判例を読みながら考えることにした。そして、トヨタでの過労自殺の判決文を読んで「うつ病になりやすい人」や「自殺しやすい人」は労災認定されにくいことが分かった。

図6 判断指針による労災認定

 【心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針】を作る際に「ストレス−脆弱性」モデルを基にしたようだが(参照)、ストレス(心理的負荷)の強度については「一般人」(参照)を基準にしたらしい。上の図のように「一般人」にとってストレスが「強」の業務であれば業務が原因で発症したとして労災を認定し(A)、「強」でなければ業務が原因とは判断せず労災を認定しない(B)らしい(業務外のストレスがあれば業務上のストレスと比較して総合的に判断するので、業務上のストレスがBなのに発症したら業務外のストレスがAだったと判断されたりする。より正確には【通達、基発第544号】など。文章がごちゃごちゃするので以降は業務外のストレスは発症しないレベルの「弱」とする)。
 このような判断指針だと、多くの「一般人」よりも脆弱性が大きい人(「弱者」と書く)は発症しても労災認定されないことがある。上の図のCの位置のストレスであれば「一般人」のAで労災が認められたように労災が認められるのだが、「一般人」のBと同じストレスのDの業務では発症しているのに労災が認められない。業務ではなく本人の脆弱性が原因で発症したとみなされるらしい。遺伝子レベルで「うつ病になりやすい人」や「自殺しやすい人」は発症しても労災が認められないことになりそうである。
 それではダメだということで名古屋地裁は『同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内の者』であれば労災が認められるような基準にすべきと考えたのだろう(参照)。通常想定される範囲内で最も脆弱な労働者を基準にすべきだとした。Dの位置で「強」とすべきだということだろう。

図7 名古屋地裁による労災認定

 ちょっと気になるのは、脆弱性が通常想定される範囲外の人(「超弱者」と書く)が発症した場合。「一般人」だけでなく「弱者」でもEの位置なら発症しないが「超弱者」は発症する(F)。その場合は地裁モデルでも労災は認められないだろうが、Gの位置だったらどうだろうか。同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内である「弱者」にCに相当する業務をさせれば「安全配慮義務違反」だろう(参照)。しかし、「超弱者」にGに相当する業務をさせた場合は「本人の脆弱性が原因」とされるかもしれない。それがちょっと心配である。

 さて、事業主には災害補償の義務がある(「労働基準法」第8章)が、労災保険を利用することで補償しなくて済み、損害賠償額からも差し引いてもらえるらしい(「労働基準法」第84条)。ただし、事業主に故意や重大な過失があると労災保険による補償額を返さなくてはいけないらしい(「労働者災害補償保険法(労災保険法)」第31条)。すると安全配慮義務違反でなければ労災が認定されても事業主(企業)にとって金銭的な不利益はないように思える。しかし、実際は「労災隠し」というキーワードがあるように、企業にとって何らかの不利益があるのだろう。だから企業は労災が認定されない方向に動く。労災認定を巡る裁判でも原告である被災者側に不利な証言が多いように見える。それは労災認定の仕組みに問題があるからではないだろうか。
 労災が認定されると企業に安全配慮義務違反があったように思われやすい。5/16頃のニュース(参照)でも、企業を責める記事が多い。厚労省も企業への指導を強化するらしい。上図のA、C、Gに相当する業務であれば、企業は安全配慮義務を果たしていなかった可能性があるし、労災認定されるのはA、C、Gだから、労災が起こった企業が責められるのは仕方ないのかもしれない。しかしDの位置で労災が認められるとしたらどうだろうか。「一般人」なら発症しない(B)。企業は「一般人」を基準に業務を考えるだろうから、「弱者」はDで発症する可能性がある。もちろん企業には「弱者」がDで発症しないように配慮する義務があるが、もしも企業が安全配慮義務を果たしていて、それでも労働者が発症または自殺してしまったのなら、企業を責めてはいけないような気がする。労働者を責めてもいけない。Dの位置で労災が認められるのなら、安全配慮義務を果たしているつもりの企業は労災認定に積極的になるのではないだろうか。そして迅速に労災が認定されるようになれば労災保険の目的(「労働者災害補償保険法(労災保険法)」第1条)に適うのではないだろうか。
 「労災ならば安全配慮義務違反」と短絡的に考えて企業バッシングをしたり役人に指導や監督を求めたりするのではなく、「安全配慮義務を果たしていても労働者が発症したり自殺したりすることがある」を前提にして、被災労働者や遺族に対する福祉を最優先に考えて、労災が認められやすくなる方向で動く必要があるのではないだろうか。

 遺伝子レベルで「うつ病になりやすい人」や「自殺しやすい人」が明らかになりつつあることを知って、企業にも労働者本人にも家族にも誰にも責任がなくても業務上の心理的負荷によるうつ病や自殺があるだろうな、と強く思うようになって、それならば…、と判例や厚労省の判断指針を見ながら考えてきた。いまのところ、これまで書いてきた通りである。

 ところで、「弱者」の心理的負荷を減らす方法だが、配置転換などで単に業務を減らすだけではプライドが傷ついたり自分を責めたりして逆効果になることがあるかしれない(追記:新しい環境に慣れるまでのストレスも大きい)。単に部下を増やして一人当りの業務を減らしても対人関係のストレスが増して逆効果になることがあるかもしれない。人事の担当者は本人の性格を十分に把握した上で、本人が満足する形で心理的負荷を減らす必要があるだろう。

 もう一つ重要なことがあった。
 同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内で最も脆弱な労働者に対する安全配慮義務については電通事件の最高裁判決で示されたが(参照)、今後は通常想定される範囲の労働者に対する安全配慮義務についても考える必要があるだろう。通常想定される範囲外の労働者とはどのような人のことなのか? 通常想定される範囲外の労働者に対する安全配慮義務はあるのか? 安全配慮義務があるとしたら、どのような配慮が必要なのか? それらをはっきりさせる必要があるだろう。


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