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共謀罪を含む改悪組織犯罪処罰法は
【「共謀罪」法 衆参両院議員の投票行動(東京新聞 2017/6/16)】

いじめ裁判:神奈川県公立中学校

『下級裁判例 東京高等裁判所 事件番号「平成13(ネ)639」平成14年01月31日判決』を読んで

 読んだ時の最初の印象は「えっ、加害生徒たちに責任はないの?」である。

(1) 責任能力
控訴人生徒らは,本件当時いずれも13歳に達し,公立中学校2年生であり,他人の身体,精神等に対する加害行為をしてはならず,他人の身体,精神等に危害を加えた場合にはその行為の責任を負わなければならないことについて判断能力を備えていたものと認められるので,民事上の責任能力が認められる。
『事件番号「平成13(ネ)639」東京高裁判決』全文3ページ)
(2) 共同不法行為
(中略)
以上の控訴人生徒らによる一連のいじめ行為(以下,併せて「本件いじめ行為」という。)は,主として2年3組の教室内で行われており,亡Kが複数の生徒からいじめ行為を受けていたことは,当該行為をしていない生徒においても当然に認識し得るものが多かったということができ,ときには控訴人生徒ら数人又は単独で,ときには他の生徒もこれに加わって,自らのほかにも同様の行為をしている者がいることを認識しながら,繰り返し,執拗に行われていたと認められる(他クラスの生徒である控訴人Iについても,前記認定説示のとおり同様に判断できる。)ものであるから,数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたものとして,亡Kに対する共同不法行為に当たるというべきである。
『事件番号「平成13(ネ)639」東京高裁判決』全文3ページ)

 加害生徒たちには責任能力があるし彼らの行為が不法行為(「共同不法行為」は【民法719条】参照)であることも認めている。ところが、次のように被害生徒が死んだことについて損害賠償の責任は無いと判示している。

(4) 本件自殺の予見可能性
被控訴人らは,控訴人生徒らに対して,亡Kの死亡(本件自殺)による損害の内金合計200万円の請求をしているが,控訴人生徒らが亡Kの死亡による損害について賠償責任を負うというためには,控訴人生徒らに本件自殺の予見可能性があることを要すると解されるので,この点について判断する。
控訴人生徒らは,亡K一人が控訴人生徒らを含む複数の生徒からいじめられていることを認識しながら本件いじめ行為をしていたもので,全体として共同不法行為と認めるべきことは前記認定説示のとおりであるが,本件いじめ行為は,同一人が行っていたのではなく,また,主として嫌がらせ行為を主とするもので,亡Kの身体に対する直接の攻撃行為ではなく,この点は本件自殺の直近に行われたマーガリン事件についても同様のものであったし,控訴人Iらによる暴行も,せいぜい青あざができたことがある程度のもので,それ自体は多大な肉体的苦痛を伴うものとはいえないものであった。これらの事情に加えて,後記のとおりM中学においていじめについての指導,教育等が十分には行われていなかったと認められる本件においては,当時中学2年生であった控訴人生徒らにおいて,本件いじめ行為により亡Kが自殺することまでの予見可能性があったとは未だ認められない。
(5) 損害
そうすると,控訴人生徒らは,亡Kの死亡による損害については賠償責任を負わず,本件いじめ行為により亡Kが被った精神的苦痛に対する慰謝料について賠償責任を負う(被控訴人らの死亡慰謝料の請求には,この慰謝料請求を含むものである。)ところ,同慰謝料としては,以上の本件において認められる諸般の事情を総合考慮すると,100万円をもって相当と認める。
『事件番号「平成13(ネ)639」東京高裁判決』全文4ページ)

 『本件いじめ行為と本件自殺との間には因果関係(事実的因果関係)が認められる』(全文4ページ)ということだから、加害生徒たちが被害生徒を殺したと言える。それにもかかわらず、殺しているにもかかわらず殺したことについての損害賠償責任は無いということらしい。その理由は「予見可能性」が無いから(死ぬとは思わなかっただろうから)ということらしい。
 最初は【民法712条】が適用されて「未成年だからかな?」と思ったけれど上記引用の通り加害生徒たちの責任能力を認めているので適用されないだろう。それに、712条が適用されるとしたら【民法714条】が適用されて加害生徒の親に損害賠償責任が発生そうだけど、そういうことでもなさそうである。どうやら昭和48年6月7日の最高裁判決(事件番号「昭和43(オ)1044」)が影響しているらしい。

 不法行為による損害賠償についても、民法四一六条が類推適用され、特別の事情によつて生じた損害については、加害者において、右事情を予見しまたは予見することを得べかりしときにかぎり、これを賠償する責を負うものと解すべきである
『事件番号「昭和43(オ)1044」最高裁判決』

 類推適用されている【民法416条】は次の通りである。

(損害賠償の範囲)
第四百十六条  債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
『民法(民法第一編第二編第三編)』第416条)

 「特別の事情」というのは「債務の不履行」以外の事情のことだろうか。これは勉強不足でよく分からない。また、第2項は「AならばBできる」という構図だが、それを「Aに限りBできる」と解釈するらしい。法律におけるそのような解釈の仕組みも不勉強でよく分からない。とにかく、不法行為でも被害者の損害が予見できなければ損害賠償の責任は無いらしい。
 不法行為による損害賠償について民法416条を類推適用することについては批判があるらしく、上記の最高裁判決の中にも反対意見が記されている(参照)。ちなみに「不法行為による損害賠償」については【民法709条】に次のように定められている。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
『民法(民法第一編第二編第三編)』第709条)

 予見可能性が無ければ損害賠償の責任が無いのなら、709条で予見可能性について言及されていても良いと思うのだが、言及してないことに意味があるように思えてならない。「過失」の条件に予見可能性が含まれているのだろうか。それも勉強不足でよく分からない。また「いじめ行為」は「故意」だろうか「過失」だろうか。「故意」に思えるが、法的な位置付けはよく分からない。

 さて、長くなったが、もう一つ気になることがあった。「過失相殺」についての判示である。長くなるが引用する。

(5) 過失相殺の規定の(類推)適用
ア 本件いじめ行為のようないじめにあった生徒であれば必ず自殺に至るというものではなく,自殺は,被害者の意思的行為であり,その心因的要因が寄与している上,亡Kにおいては,本件いじめ行為を受けたことによる苦悩を担任教諭にも両親にも打ち明けたことがなく,これに対する打開策がとられる機会を自ら閉ざした面があること,本件いじめ行為のうちの個々の行為には,亡Kの言動に触発されたり誘発されて行われたものがあるなど,亡K自身にもその原因に関与している場合があったこと,子供の教育・養育は,学校におけるものと家庭における保護者によるものとが併行して行われるものであり,保護者においてその責任を負担していることは明らかであるところ,被控訴人らにおいて日頃の亡Kとの親子のふれあいが十分でなかったことがうかがわれる(被控訴人Pは,担任教諭との間で連絡を取り合っていることが亡Kに知られないように気遣っており,また,本件自殺日の約1週間前には亡Kの目の下に大きなくまができていたというのに,被控訴人らにおいては,このような亡Kの状態に気付いていない。)こと,前記のとおりN教諭は,十分とはいい難いものではあったが,自己が把握,認識した範囲においては個別的な対応,処理をしていたものであることなどを併せ考慮すると,本件いじめ行為及びその結果本件自殺という重大な結果を招いたことについて,学校側にすべての責任があるといえないことも明らかであり,亡K本人のほか,学校からの帰宅後及び休日において,家庭で亡Kと生活をともにし,監護養育義務を負っていた被控訴人らにも,亡Kが本件いじめ行為等のトラブルの渦中にあったことを看過し,亡Kの監護養育について注意監督を怠った点があるものと認められ,この点において相当の責任があるというべきである。
イ これに対し,被控訴人らは,いじめは被害生徒の保護者にとってつかみにくいものであること,M中学が本件いじめ行為(特にマーガリン事件)について被控訴人らに報告していれば,亡Kの自殺を防止することができたことなどから,過失相殺すべきではないと主張する。
しかしながら,本件においては,亡K本人にも上記のとおりの斟酌事由がある上,被控訴人らは,英語のノートに対するいたずら書き,じゃんけんゲームにより青あざを付けられたこと,亡Kの机の上にいたずら書きがあったこと,女子生徒との間でトラブルがあったこと,亡Kが足を引きずって歩いていたこと,転校前の中学校で亡Kが少しいじめられていたことについては認識していたのであるから,たとえN教諭から,心配ない,対処したなどと説明を受けたことがあり,亡K自身が家庭において本件いじめ行為等について語らなかったとしても,亡Kを巡って複数のトラブルが続いて起きていることを考慮して,被控訴人らにおいても,亡Kとの対話を通じるなどして,学校生活における亡Kの状況を十分に把握すべきであり,亡Kが本件自殺にまで追い込まれるほど精神的・肉体的負担を感じていたことに気付かなかったこと自体,亡Kの両親である被控訴人らの亡Kに対する監護養育が十分でなかったことを示すものというべきであるし,マーガリン事件等が被控訴人らに報告されさえすれば,必ず本件自殺を防止できたともいえないから,被控訴人らの主張は理由がない。
ウ そこで,損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし,過失相殺の規定の適用及び類推適用により,被控訴人らの被った損害(前記(4)の金額)について7割の減額をすることを相当と認める。
『事件番号「平成13(ネ)639」東京高裁判決』全文7ページ)

 これまで、【電通事件】【オタフクソース損害賠償】など過労自殺裁判の判決文を読んできたのだが、そこから連想される過失相殺と大きく異なる。過労自殺裁判では『性格傾向が通常想定される範囲内』であれば心因的要因で賠償額を減額できない。また、家庭の責任で減額する理由も少し違うような気がする。東京高裁判決の理屈を過労自殺裁判に適用すると次のようになる。

 過重な業務に従事していた労働者であれば必ず自殺に至るというものではなく,自殺は,被害者の意思的行為であり,その心因的要因が寄与している上、被害者は過重労働による苦悩を上司にも家族にも打ち明けたことがなく、これに対する打開策がとられる機会を自ら閉ざした面がある。また、家族は被害者の過重労働や睡眠不足などの変調を認識していたのだから休ませたり精神科での治療を受けさせるべきであり、被害者が自殺にまで追い込まれるほど精神的・肉体的負担を感じていたことに気付かなかったこと自体、被害者家族の注意が十分でなかったことを示すものである。
 そこで、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし,過失相殺の規定の適用及び類推適用により、被害者らの被った損害について7割の減額をすることを相当と認める。

 そのような判決にはならないような気がする。【三洋電機サービス損害賠償(浦和地裁)】では、本人や家族の問題で過失相殺しているが、判決文を読むとある程度納得できる。ただ、東京高裁での控訴審(事件番号「平13(ネ)1345」平14/7/23判決)には問題があると感じた。
 どうやら、保護者の責任については『子供の教育・養育は,学校におけるものと家庭における保護者によるものとが併行して行われるものであり,保護者においてその責任を負担していることは明らかである』の部分が重要らしい。でも、被害生徒の保護者は加害生徒に対して何をすれば良かったのか。いじめ問題では加害生徒に対する指導が必要なのであって、それができるのは教師か加害生徒の保護者だろう。被害生徒がいじめにより自殺したら、その責任は加害生徒と教師、そして加害生徒の保護者にあると思われ、そのような判決になるのが望ましいと思われる。

 この事件の詳細と裁判の解説は以下のサイトに載っていた。

  【子どもたちは二度殺される【事例】】
  【いじめをめぐる法的諸課題——学校の教育責任と被害生徒の親責任——】

 それぞれのサイトはいじめ問題について積極的に取り上げていて、事件や裁判がリストアップされている。いじめ問題について考えたい人たちにとって役立つサイトだと思われる。

  【子どもに関する事件・事故 1】
  【いじめをなくすホームページ】


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