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共謀罪を含む改悪組織犯罪処罰法は
【「共謀罪」法 衆参両院議員の投票行動(東京新聞 2017/6/16)】

条文の一部が違憲の場合の考え方

 今さらである。国籍法第3条の違憲性を判示した2008/6/4の最高裁大法廷判決。判決文(参照1参照2)をダウンロードしておいたのだが、後回しにして読まずにいた。「父母の婚姻」という要件が違憲かどうかにも興味があったが、違憲だった場合にどのように日本国籍を認めるかにも興味があった。国籍法の第3条が違憲だとしても上告人(一審の原告)に日本国籍を認める条文が存在しないからである。判決文を読むといろいろな意見がある。結論は「父母の婚姻」という要件は違憲であり、上告人らに日本国籍を認めているのだが、裁判官によって意見が異なっている。2008/6/5の新聞を読んで分かりにくかったのは、同じ結論でも違憲の理由や日本国籍を認める理由が異なっていたかららしい。

 判決文を読んでなるほどと頷けたのは今井功裁判官の補足意見の次の部分である。

 私は,多数意見に同調するものであるが,判示5の点(本件上告人に日本国籍の取得を認めることの可否)についての反対意見にかんがみ,法律の規定の一部が違憲である場合の司法救済の在り方について,私の意見を補足して述べておきたい。
 1 反対意見は,日本国民である父から出生後認知された者のうち,準正子に届出による日本国籍(以下単に「国籍」という。)の取得を認め,そうでない者(以下「非準正子」という。)についてはこれを認める立法をしていないこと(立法不存在ないし立法不作為)が憲法14条1項に違反するとしても,非準正子にも国籍取得を認めることは,国籍法の定めていない国籍付与要件を判決によって創設するもので,司法権の範囲を逸脱し,許されないとするものである。
 2 裁判所に違憲立法審査権が与えられた趣旨は,違憲の法律を無効とすることによって,国民の権利利益を擁護すること,すなわち,違憲の法律によりその権利利益を侵害されている者の救済を図ることにある。無効とされる法律の規定が,国民に刑罰を科し,あるいは国民の権利利益をはく奪するものである場合には,基本的に,その規定の効力がないものとして,これを適用しないというだけであるから,特段の問題はない。
 問題となるのは,本件のようにその法律の規定が国民に権利利益を与える場合である。この場合には,その規定全体を無効とすると,権利利益を与える根拠がなくなって,問題となっている権利利益を与えられないことになる。このように解釈すべき場合もあろう。しかし,国民に権利利益を与える規定が,権利利益を与える要件として,A,Bの二つの要件を定め,この両要件を満たす者に限り,権利利益を与える(反対解釈によりA要件のみを満たす者には権利利益を与えない。)と定めている場合において,権利利益を与える要件としてA要件の外にB要件を要求することが平等原則に反し,違憲であると判断されたときに,A要件のみを備える者にも当該権利利益を与えることができるのかが,ここでの問題である。このような場合には,その法律全体の仕組み,当該規定が違憲とされた理由,結果の妥当性等を考慮して,B要件の定めのみが無効である(すなわちB要件の定めがないもの)とし,その結果,A要件のみを満たした者についても,その規定の定める権利利益を与えることになると解することも,法律の合憲的な解釈として十分可能であると考える。
事件番号「平成18(行ツ)135」平成20年06月04日 最高裁大法廷判決

 一部を強調表示した。
 法律の条文を拡大解釈して権利利益を与えるのではなく、違憲な部分を削除した条文に従うと必然的に権利利益が与えられるという論理である。図にすると分かりやすい。

条文の一部が違憲の場合の考え方

 まず、図の(1)のようにXに与えられるべき権利利益を剥奪しているYという規定が違憲の場合、Yという規定が無効になり、Yという規定の要件を満たしている者にも権利利益が戻される。これが違憲判断があった場合の通常のケースであり、問題ない。
 問題とされたのは(2)のようにAという要件とBという要件の両方を満たした者に権利利益を与えている条文である。この場合、条文そのものを無効にするとA,B両方の要件を満たして権利利益が与えられていた者の権利利益を奪うことになる。それが憲法上許されることであれば良いが、そうでない場合は条文を無効にすることはできない。しかし、Aという要件を要求していることには問題なく、さらにBという要件を要求していることが違憲の場合は、Bという要件のみを無効にしてAという要件を満たしていればBという要件を満たしていなくても権利利益が与えられるようにすれば良い。
 これはAという要件を満たした者について抜き出せば図の(3)のようになる。
 今井功裁判官の補足意見にはAとBの両方の要件を要求することについて『反対解釈によりA要件のみを満たす者には権利利益を与えない。』と書いてあるが、『A要件のみを満たす者』とは「A要件を満たすがB要件を満たさない者」ということである。すなわち、「反対解釈によりA要件を満たすがB要件を満たさない者には権利利益を与えない。」ということであり、図の(4)のようにBという要件を満たさない者の権利利益を剥奪していることになる。Aという要件を要求していることには問題なく、さらにBという要件を要求していることが違憲の場合は、Aという要件を満たしていればBという要件を満たしていない者にも権利利益が戻される。図の(1)と同じである。
 だから、Bという要件を無効にして条文を適用することは国会の権限である立法には当たらず、司法権の範囲を逸脱していないというわけである。

 私は今井功裁判官の意見は合理的であると思われ、賛成である。今後も同じ論理が使えそうである。

 さて、今井功裁判官の補足意見の論理を国籍法第3条に適用すると、日本国民である父から出生後認知された20歳未満の子であれば日本国籍を取得できることになる。すなわち、父親の認知だけで日本国籍を取得できることになる。胎児の内に日本国民である父に認知された場合は国籍法第2条により認知のみで日本国籍が取得できるのだから、出生後であろうと認知のみで取得できても問題ないと思われるが、横尾和子裁判官、津野修裁判官、古田佑紀裁判官が反対意見で次のように噛み付いている。

 また,多数意見のような見解により国籍の取得を認めることは,長年にわたり,外国人として,外国で日本社会とは無縁に生活しているような場合でも,認知を受けた未成年者であれば,届出さえすれば国籍の取得を認めることとなるなど,我が国社会との密接な結び付きが認められないような場合にも,届出による国籍の取得を認めることとなる。届出の時に認知をした親が日本国民であることを要するとしても,親が日本国籍を失っている場合はまれであり,そのことをもって,日本国民の子であるということを超えて我が国との密接な結び付きがあるとするのは困難であって,実質は,日本国籍の取得を求める意思(15歳未満の場合は法定代理人の意思)のみで密接な結び付きを認めるものといわざるを得ない。
 このようなことは,国籍法3条1項の立法目的を大きく超えることとなるばかりでなく,出生後の国籍取得について我が国社会との密接な結び付きが認められることを考慮すべきものとしている国籍法の体系ともそごするものである。
事件番号「平成18(行ツ)135」平成20年06月04日 最高裁大法廷判決

 彼らの反対意見はもっと長いが、引用した部分に焦りを感じる。要するに、「おいおい、認知のみで日本国籍の取得を認めちゃっていいのかよ!」ということだろう。
 彼らは国籍法第3条の「父母の婚姻」という要件を違憲としていないが、もしも国籍法第3条の「父母の婚姻」という要件が違憲であれば、要件を取り除いて条文を適用すると認知のみで日本国籍の取得を認めざるを得ないのだから、仕方がない。しかも、彼らは引用した部分の前提として『なお,仮に非準正子に届出による国籍の取得を認めないことが違憲であるとしても,上告を棄却すべきものと考える。』と述べている。すなわち、「違憲」が前提で「認知のみはダメ」と述べているのである。それは合理的ではなく、今井功裁判官の補足意見の方が合理的だと思われる。

 なお、日本国民である父の認知のみで日本国籍を取得できることについて、私は良いと思っている。ただ、理由については面倒なので書かないし、議論も面倒なので行う気がない。


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