ブルドーザー型の誰かに振り回されている人たちへ
【いんちきで知ったかぶりの専門家たち】では『「困った人たち」とのつきあい方』という本から「風船型――いんちきで知ったかぶりの専門家たち」を紹介したのだが、同じ本の一つ前に「ブルドーザー型」が載っている。同じ「自信過剰の専門家型」の章に分類されているが、ブルドーザー型は『実際に相当の知識を持っている』ことが風船型とは異なる。言っていることがほとんど正しいから扱いに困るのである。
そんなブルドーザー型の項目の中から引用するので参考にしてもらいたい。
ブルドーザー型の人間は、名前からも分かるように、すばらしく生産的で、注意深くじっくりと計画を練り、大きな障害があっても突き進むような、徹頭徹尾正確に考える人たちである。彼らは人の目から見ると、他人が自分にはほとんど必要でないくらいに自信があり、独力で仕事ができ、人の世話にはならない独立心が強い人のように見える。
(ロバート・M. ブラムソン著『「困った人たち」とのつきあい方』河出書房新社、161ページ)
有能そうで組織にいてほしいタイプだろう。そんな人でも扱いにくい「困った人」になってしまう。その理由が(1)から(6)まで箇条書きにしてあるが、次の3つは組織にとって害になることだろう。
(4) ブルドーザー型の人は、他の人が判断したり、創造力を発揮したり、工夫をする余裕を与えない。
(5) 彼らが、ひとたび実施計画に着手すると、その計画が必ず失敗するように周りには思えても、思いとどまらせるのははなはだ難しい。したがって、ブルドーザー型は確かにいつもは正しいのだが、もし間違っている時には関係者全員が大変な被害に遭うのである。
(6) 最後に、物事がうまくいかない時に彼らは、自分の計画を実行した(あなたや私のような)無能力な人間に責任があると考える傾向にある。
(ロバート・M. ブラムソン著『「困った人たち」とのつきあい方』河出書房新社、162ページ)
自分の近くにいないだろうか。自分が見聞きした人の中にいないだろうか。私は最近「あっ、あの人はブルドーザー型かも」と思った。だからこの記事を書いているのだが…。
ブルドーザー型は自分の考えを神託のように感じているらしく、他の人の情報や知識をほとんど聞こうとしない。彼らは、ご存じのように、進むべき最良の道をすでに知っているからだ。したがって彼らは、自分と違う意見に対しては、いらだったり、これ見よがしに怒ったり、受け入れるのを拒否したりし、人の意見をある事実の単なる別の解釈と考えるよりもむしろ、個人的な反対意見と理解するのである。
(ロバート・M. ブラムソン著『「困った人たち」とのつきあい方』河出書房新社、162ページ)
困った性格である。あなたが見聞きした誰かに似ていないだろうか。
本では「ブルドーザー型を理解する」という項目で親子の例を出して解説しているが、子が自分よりも知識が豊富な親に頼るようにブルドーザー型の人にも「信者」が多数いることがあるから困る。ブルドーザー型の人を批判すると、その「信者」から反撃されるだろう。まるで親を馬鹿にされた子が怒るように。
ブルドーザー型が安定している根本的な理由は、変化する世界の中にいても唯一の礎石となりうる確かな知識をもっているという自信である。そのため、その知識の正確さを疑われるということが、ブルドーザー型の人にとって大変つらいことになるのは当然だ。いま実際に検討しているケースだけではなく、個人的動機にも深く関わることなのである。したがって、計画が不首尾に終わった時に彼らが守りの態勢に入ってから最初にすることは、他人の愚かさを攻めることである。そしてそれもできず、自分の論理的思考にまずいところがあると認めざるをえなくなった時には、立ち直れないほどの精神的打撃を受けることもあるのだ。
(ロバート・M. ブラムソン著『「困った人たち」とのつきあい方』河出書房新社、164ページ)
このようにブルドーザー型の人が批判された時に反撃する言動は、彼らにとっては自分を守るためなのかもしれない。彼らに精神的打撃を与えることが目的ならば良いが、彼らを優秀な人材として利用し続けたい場合は精神的打撃を与えるほどの批判は避けた方が良いかもしれない。
さて、次はそのようなブルドーザー型への対処法である。
ブルドーザー型の人に接するうえで中心となる方策は、こちらの助言が彼らを個人的に攻撃していると受け取られないように、彼らの専門的知識に直接挑戦することを用心深く避けながら、それ以外の意見を考えるように仕向けることだ。これには四つの段階が考えられる。すなわち、十分な準備をすること、よく聞いて理解すること、質問し提案すること、反対しないこと、自分自身がブルドーザー型の行動に巻き込まれないように注意すること、である。
(ロバート・M. ブラムソン著『「困った人たち」とのつきあい方』河出書房新社、166ページ)
その後に「四つの段階」のそれぞれについて少し詳しく解説が書いてある。
下調べをすること
ブルドーザー型の人や同様の問題を抱えた専門家に対して、効果的に対処するための基本的な法則は、自分で必ず下調べをしなければならないということだ。つまり少なくとも、必要な資料を整理し、十分な裏づけ資料を用意し、自分の資料や対案を秩序立てて説明できるようになっていなければならない。
(ロバート・M. ブラムソン著『「困った人たち」とのつきあい方』河出書房新社、167ページ)
(中略)
もしこちらが、下調べをしないぞんざいな人間だと思われれば、専門職はこちらを信頼できる人間であるとはまともに考えなくなる。議論の相手もしてくれずに、無能力者として歯牙にもかけなくなるだろう。
ブルドーザー型の人に反論している人を時々見かけるが、準備不足だと感じることが多い。簡単に論破されてしまうだろうと感じることが多い。そんな反論者はやがて相手にもされなくなるのだろう。
話を聞いて理解すること
専門職は自分の偉大な知識が、鈍感だと思っている相手の心に何とか届いたかどうか、普通は疑っている。彼らの言うことを理解していると知らせる最良の方法は、熱心に話を聞くことである。話をさえぎったり途中で止めたりしないことだ。その後で、彼らが説明した計画や主張の要点を表現を変えて相手に話してみるとよい。
(ロバート・M. ブラムソン著『「困った人たち」とのつきあい方』河出書房新社、168ページ)
(中略)
相手の話に積極的に注目することによって生まれるもう一つの重要な利点は、ブルドーザー型の人に対し、彼の存在の重要性と彼の知恵を評価し尊敬しているのだということを彼らに伝えることだ。こうするだけで、何でも知っているという彼の態度が和らいでいく可能性もある。
(中略)
相手の話の要点を言葉を変えて述べることで、今言ったことを理解したということを逆に相手に示すことができる。
これは傾聴の基本だろう。ブルドーザー型の人以外にも応用できる。相手の話の要点を言葉を変えて述べることは心理カウンセラーの手法としてよく使われているのではないかと思う。
しっかりと質問するが、対決はしないこと
ブルドーザー型人間に対してあなたが同僚や上司やたとえ部下であったとしても、現実には不都合なことや見落としていることがあれば指摘しなければならない場合がよくある。こちらが、十分扱われなかったと思っている問題を、ただ話題にするだけといったこともあるだろう。ブルドーザー型の傾向のある人はすべて、自分のものとは異なる世界観を暗に示すような意見には、すべて「個人的」な反論として理解してしまうと考えてよいだろう。
(ロバート・M. ブラムソン著『「困った人たち」とのつきあい方』河出書房新社、169ページ)
このような理由で、あまり怒りっぽくない人に対して使うような、権威的に反対意見を押しつける方法よりも、質問の形で問題点や間違いを話していくほうが賢明だ。
(中略)
このタイプの人に直接反論すべきではないが、質問する時には十分にしっかりと曖昧なところのないようにすべきだ。もし質問が大雑把すぎると、彼らは、こちらが無知であると理解しかねない。彼らにとって聞き方が慇懃無礼で自分をなだめるような調子に聞こえたら、その場で拒否されることもある。
(以下略)
この質問する方法は難しい。本にはもう少し詳しく書いてあるが、実践して身に付けるしかない。私の場合は、とにかく相手の主張を詳しく理解しようとする。話を聞いていると気になることが必ず生じる。その気になったことについて質問する。そうして、どんどん相手の主張を理解していくと、相手も自分の主張を改めて整理できるようになるのか自分の主張の問題点に気付くことがある。その時の私の姿勢は問題点を気付かせようとする意図で話を聞いたり質問したりするのではなく、とにかく相手の言いたいことを理解しようとする意図で話を聞いたり質問したりする。もしかしたら、こちらが問題だと思ったことも詳しく話を聞くと問題ないことが分かるかもしれない。
反対の専門家になるのを避ける
自分にも同じような能力があると考えている人にとって、ブルドーザー型人間の自尊心の強い恩着せがましい態度は、特に耐えられないものだ。緊張したやり取りに発展していくと、無意識のうちにふだんは「困った人」ではない人でも、時には何もかもぶち壊してしまう死にもの狂いの悪あがきをすることがある。
(ロバート・M. ブラムソン著『「困った人たち」とのつきあい方』河出書房新社、173ページ)
(以下略)
これは四つの段階の最後の「自分自身がブルドーザー型の行動に巻き込まれないように注意すること」である。第三者には「子どもの喧嘩」のように見えてしまい、自分の評価を下げてしまうこともある。気を付けなければならない。
以上の方法で効果がない場合の対処法についても、本に書いてある。
最後の手段――専門家でいたければそうさせておく
(中略)
(ロバート・M. ブラムソン著『「困った人たち」とのつきあい方』河出書房新社、176ページ)
それは、相手が組織の中では同僚や部下であっても、自分のプライドを抑えて「意図的に」彼らを「上の」人間としてうやうやしく対応することである。あなたは相手の言うことを熱心に聞き、目を輝かせて、注意深く努力しながら相手に調子を合わせることになる。
(中略)
このような従属的な姿勢をとることで、相手との対話は摩擦の相当少ない、全体的にやりやすいものになる。この結果、彼らが能力の範囲内において生産的な仕事ができるようになることは明らかである。さらに大切なのは、もしこうしたことをやってのけられれば、以前ほどには緊張感と怒りを感じることはないだろう。
(中略)
最後の手段を選ぶことになっても、すでに紹介したものを含めて考えられるあらゆる方法を使ってみよう。努力し続けることが無駄ではないのは、ある意外な理由からだ。つまり、あなたが十分に協力的な心構えで、あのブルドーザー型人間もあなたを一人の専門家として、違った目で見始めるということだ。
(以下略)
これは、ブルドーザー型人間に自分の意見を聞いてもらう最良の方法かもしれない。自分の意見を聞いてもらうには相手に信頼されるようになってからの方が楽である。相手に好かれる人間になってからの方が楽である。「急がば回れ」である。
引用が多くなった。最後に対処法のまとめの部分を引用する。
ブルドーザー型への対処法まとめ
(ロバート・M. ブラムソン著『「困った人たち」とのつきあい方』河出書房新社、178ページ)
- こちらも完全な準備を怠らない。直接関係のある書類は注意深く目を通し、正確であるかどうか調べておく。
- 注意深く話を聞き、彼らの提案をまとめたうえで表現を変えて相手に伝え、こうして相手の過剰説明を避ける。
- 独断的な意見を述べることは避ける。
- 反対意見はためらいがちに表現した方がよいが曖昧な言葉は使わない。問題提起は質問の形式で行う。
- 計画の再検討をしやすくするために、範囲を広げた質問をする。
- 自分自身のブルドーザー的傾向を抑えるために――
・知ったかぶりの態度が出てないか、自分自身の話をよく聞いてみる。
・彼らの知識をこちらが高く評価していることを伝える。
・お互いが相手の提案を再検討する時間を作るために、決定を遅らせることを提案する。
- 最後の手段として、摩擦を避け、将来対等の関係を築き上げることができるように、下手に出ることを決心する。
ブルドーザー型の人に振り回されて困っている組織の人たちの役に立ちますように。
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