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共謀罪を含む改悪組織犯罪処罰法は
【「共謀罪」法 衆参両院議員の投票行動(東京新聞 2017/6/16)】

いじめ裁判:鹿沼市立中学校

『下級裁判例 東京高等裁判所 事件番号「平成17(ネ)5173」平成19年03月28日判決』を読んで

 新聞で何度か読んで教室でパンツを脱がされる被害が印象に残っているいじめ事件の裁判。事件をまとめたサイトがあった。

  【子どもたちは二度殺される【事例】】

 加害生徒たちと和解が成立しているみたいだけど、加害生徒やその親は反省してなさそうに感じた。
 このサイトはいじめ問題について積極的に取り上げていて、事件や裁判がリストアップされている。いじめ問題について考えたい人たちにとって役立つサイトだと思われる。

  【子どもに関する事件・事故 1】

 その他、いじめ問題については次のサイトもある。

  【いじめをなくすホームページ】

 さて、判決文だが、原告(控訴人)が過労自殺の判例を応用していそうである。見なれた文章があった。

 前記のとおり,Aはいじめによりうつ病にり患し,その症状の1つとして自殺に至ったのであるが,本件でAに加えられた長期にわたる極めて過酷ないじめのように強い心理的負荷によってうつ病が発症し得ること及びうつ病者がしばしば自殺することは,広く知られたところであり,教員らはもちろん一般人にも予見可能であって,いじめを阻止しなかった教員らの安全配慮義務違反とAの自殺との間には相当因果関係が存在する。
 なお,うつ病の発症に対してAの病前性格が影響していたとしても,Aの性格が同年代の子どもと比較して通常想定される範囲を外れたものでないことは明らかであり,過失相殺をすることは許されない。
『事件番号「平成17(ネ)5173」東京高裁判決』全文10ページ

 過労自殺裁判の判決における「業務」を「いじめ」に置き換えているのだろう。私はこの原告の主張に沿う判決を出すべきだと思った。うつ病に罹患すると自殺する可能性が高いのだから、Aさんをうつ病にした安全配慮義務違反とAさんの自殺との間には相当因果関係が存在すると考えるべきだろう。過失相殺についても【電通事件】の判決を連想すると原告の主張の通りだろう。
 しかし、東京高裁は『中学校教員らの安全配慮義務違反とAのうつ病り患及び自死との相当因果関係を認めることはできない』と判示した。長くなるが引用する。

(2)教員らの安全配慮義務違反と相当因果関係のある損害
ア 被控訴人らは,前記のとおり,4月23日(パンツ下げ事件)から7月末ころ(第3学年1学期終了時)までの間,甲中学校教員らが安全配慮義務に違反したことによりAが受けた損害につき賠償義務を負う。
イ 前記のとおり,教員らが安全配慮義務を尽くしていれば,第3学年1学期中早期にパンツ下げ事件以後のいじめを阻止し得た高度の蓋然性を認めることができ,第3学年1学期が終わるまでの間にAがE1らからほぼ毎日のように暴行や辱めを内容とするいじめを受け,肉体的・精神的苦痛を被ったことが,教員らの安全配慮義務違反と相当因果関係のある損害に当たることは明らかである。
ウ Aは,第3学年2学期(10月末まで)にも,E1から暴行を複数回受け,クラス内で孤立無援の状況に置かれて深刻な疎外感を感じ,甲中学校における生活に強い精神的な苦痛を感じて生活していた(前記認定)が,1学期中にAに対して加えられた執拗ないじめの態様を考慮しても,夏休みを挟んだ2学期においてもAがいじめを受けたり,クラス内で疎外された状況に置かれたりすることが通常であるとまではいえず,甲中学校教員らにおいて,Aに対する安全配慮義務を怠っていた1学期の当時には,2学期にもAに対するいじめが続くことを予見し得たと認めるに足りず,Aが2学期に受けた肉体的・精神的苦痛につき,教員らの安全配慮義務違反と相当因果関係を認めることはできない
エ Aは,第3学年2学期途中から登校しなくなった時点では,長期にわたっていじめを受けたことを誘因としてうつ病にり患しており,これにより自死に至ったのであるが,甲中学校教員らの安全配慮義務違反は,4月23日(パンツ下げ事件)以後1学期終了時までの期間について認めることができ,この期間中にAが受けたいじめの内容及び程度は,暴行による苦痛を与えるだけでなく継続的に人間としての尊厳を踏みにじるような辱めを加えるものであって,E1及びF1によるいじめを傍観し,時には加担した同級生の態度も加わって,極めて強い精神的負荷をAに加えるものであった。しかし,Aは,1学期が終了した時点ではうつ病にり患していたとまでは認められず,その後の経緯を経てうつ病にり患したこと,Aに対するいじめは,暴行自体は深刻な傷害を負わせる程度であったとは認めることができず,いじめにより受けていた精神的な苦痛が他者からは把握し難い性質のものであったことを併せ考えると,Aが1学期中に受けたいじめを原因としてうつ病にり患し,自死に至るのが通常起こるべきことであるとはいい難く,いじめを苦にした生徒の自殺が平成11年以前にも度々報道されており,いじめが児童生徒の心身の健全な発達に重大な影響を及ぼし,自殺等を招来する恐れがあることなどを指摘して注意を促す旧文部省初等中等教育局長通知等が教育機関に対して繰り返し発せられていたこと(甲13,23,弁論の全趣旨)を勘案しても,甲中学校教員らが,第3学年1学期当時,Aがいじめを誘因としてうつ病にり患することを予見し得たとまでは認めるに足りないといわざるを得ない。
 よって,甲中学校教員らの安全配慮義務違反とAのうつ病り患及び自死との相当因果関係を認めることはできない
『事件番号「平成17(ネ)5173」東京高裁判決』全文25ページ〜

 『4月23日(パンツ下げ事件)から7月末ころ(第3学年1学期終了時)まで』のいじめはAさんがうつ病になった原因ではないという主張のようである。『極めて強い精神的負荷』ではあったが、その直後にうつ病になっていたとは認められないから『暴行自体は深刻な傷害を負わせる程度であったとは認めることができず』ということらしい。安全配慮義務違反があったのはその期間だけであるから、安全配慮義務違反とうつ病罹患(それに続く自殺)との間には相当因果関係を認めないということである。
 では、その後のいじめがうつ病になった原因だろうか。原因の一つではあるが、『4月23日(パンツ下げ事件)から7月末ころ(第3学年1学期終了時)まで』のいじめ程の『極めて強い精神的負荷』ではないはずである。加害行為からうつ病に罹患するまで時間がかかると、因果関係がないと判断するようである。過労自殺裁判ではそのような判決にはならないはず。すぐに判決文を見つけられなかったが…。
 この判決には、期間を区切って安全配慮義務違反と自殺との因果関係を考察している点に、トリックがある。パンツ下げ事件から不登校になった(うつ病になった)時点までの継続したいじめに対して安全配慮義務違反があったのだから、その安全配慮義務違反とうつ病との間には相当因果関係を認めるべきだろう。しかし、期間を区切って判断することにより、いじめは継続していたが、安全配慮義務違反と見なせる期間とうつ病罹患を切り離すことができる。このトリックは狡い。今後、このような判決が続かないことを願う。被告の弁護側は有効なテクニックとして利用しそうだが…。

追記:
 過労自殺裁判の判決文を読んでから時間が経っているせいで考察が甘くなっているかもしれない。裁判所のサイトの要旨には次のように書いてある。

いじめを苦にした中学生の自殺につき,いじめを阻止しなかった教員らの安全配慮義務違反を認め,同義務違反と自殺との間には,事実的因果関係を認めたが,相当因果関係は認められないとして,慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円の損害を認めた事例
『事件番号「平成17(ネ)5173」東京高裁判決』

 要するに、うつ病に罹患することやそれに続く自殺を予想することができなかったのなら、うつ病罹患や自殺については相当因果関係を認めることはできないということだろう。争点は予見可能性の有無。判決文を読むと、予見可能性に関しての考察は甘かったように思う。


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