ネット・バイオレンス
今日(2008/6/15)の「メントレG」に阿部寛さんと夏川結衣さんが映画「歩いても 歩いても」のプロモーションとして一緒にゲスト出演していて、ドラマ「結婚できない男」を楽しく見ていた私は懐かしく思いながら番組を見ていた。見終わった後で、ネット上をぶらぶらしていて、ふと夏川結衣さんのことを思いだして、「夏川結衣 - Wikipedia」を見た。「けっこう主演作品あるなぁ。『結婚できない男』より前じゃん。『結婚できない男』でブレイクしたわけじゃないかも…」などと思っていたら、ふと、『ネット・バイオレンス~名も知らぬ人びとからの暴力~(2000年) - 主役:阿南亮子 役』に目が止まった。
私は【総閲覧数の多くは自分の閲覧】という記事の中で次のように書いた。
インターネットが流行り始めた初期の頃、自分のサイトの掲示板を荒らした人を現実の社会で訪問するドラマがあった。実話を基にしたドラマだった。同じ人が同じ掲示板に同じ時に複数の名前で書き込んでいることも紹介された。
(総閲覧数の多くは自分の閲覧 - 正己の異論・反論)
ドラマのタイトルはすっかり忘れていた。しかし、ついさっき、分かった。『ネット・バイオレンス~名も知らぬ人々からの暴力~』(平成12年11月11日(土)19:30~20:39放、NHK総合「土曜特集ドラマ」)だった。「夏川結衣さんが主演だったんだ…。相手は北村一輝さんか…。彼の演技も好きなんだよなぁ」と思いつつ、『実話を基にしたドラマだった』という記憶を確かめようとネットで調べ続けた。
脚本は野沢尚さんである。とても有名な脚本家で、彼が死んだ時も話題になった。「ネット・バイオレンス」でググればあらすじを載せているサイトが見つかる。そして、「野沢尚のミステリードラマは眠らない―あなたにこの物語は書けない!」という本に「覚書にかえて」という形でドラマ「ネット・バイオレンス」の発想のペースになった経験が書いてあるらしい。「ネット・バイオレンス」でググって文章を見つけたのだが、読んでみて全文を載せたくなった。しかし、著作権のことが気になるので一部だけを引用することにする。
ネット犯罪は、インターネットで本格的に金融取引が始まれば加速度的に増えていくだろう、と専門家は予測する。
が、電脳世界はすでに、犯罪という明確な形を取らなくても、我々の生活を蹂躙しているような気がする。
ハンドルネームを持つ人々が自由な意見で意見交換をする匿名社会は、人々の心に悪意を増殖させている。発言に責任を取らなくてもいい。てっとり早く相手を攻撃できて、憂さ晴らしができてしまう。
実は私も、その被害を受けた一人だった。
(野沢尚著「野沢尚のミステリードラマは眠らない」日本放送出版協会)
私は自分の名前を出して発言した。しかし相手はそうではなかった。匿名性というなかでは、どんな人間でも演じられる。自分の発言に責任を持たずに、どんなことを言っても攻撃されはしないという安全地帯にいる。私が「本当のお客さんなんじゃないか」と思っていた人は、実はどんなふうにでも化けられる。この人たちの生の声はいったいどこにあるのか。
人間が面と向かって話す時、心で芽生えたことを言葉にする段階で推敲する。「こういうことを言ってもいいのか」「ここまで言っても許されるのか」「これは言ってはいけないんじゃないのか」「ちょっと遠まわしに言わなければいけないんじゃないか」そんなことを考えながら話をするのが、人間の会話だと思う。
しかし、ネットでの会話は、言葉を吟味するというプロセスを省いていく。確かに生の声ではあるけれど、生の声以上に自分を激しく駆り立てていく。本当の気持ち以上に自分を化けさせていく。それによって傷ついていることがとてもバカバカしく思えてきた。ネットでの会話は人間同士の会話ではないのだ。
(野沢尚著「野沢尚のミステリードラマは眠らない」日本放送出版協会)
『ネット・バイオレンス』は、そんな自分自身の苦い経験が、発想のベースになっている。自分の経験と怒りをもとにドラマを書くということは、私にとって久しぶりのことであるし、とても珍しいことだ。
(野沢尚著「野沢尚のミステリードラマは眠らない」日本放送出版協会)
どうやら、『自分のサイトの掲示板を荒らした人を現実の社会で訪問する』というストーリーについては、彼の経験ではなさそうである。引用しなかった部分によると会って話したかったが話す術がなかったようである。
匿名性をいいことに、仮面を付けているのをいいことに、自分の心を激しく駆り立てて相手に投げつけるネット社会の住人たちに、このドラマで問いたい。
電脳世界というのは、ぬくもりのある人間関係をどんどん削いでいく。距離を置いたまま言葉をぶつけ合うだけでは、世界はどんどん閉じていくばかりだ。本当にあなたたちはそんなぬくもりのない世界で生きていたいのか、と。
むしろ、ぬくもりを求めてネットに参加する人もいるだろう。しかし、この世界ではそんな人たちはどこかで押さえつけられ、周りの過激さの中に埋もれてしまう。
(野沢尚著「野沢尚のミステリードラマは眠らない」日本放送出版協会)
人はたぶん、こんな便利なものを手放すことは絶対しないだろう。このドラマのなかで私は、ネット世界は「暴力装置」と書いた。使い方を間違えば容易にそういう装置になりうるからだ。だからこそ一人ひとりの意識の持ち方、良識が問われるのではないか。
(野沢尚著「野沢尚のミステリードラマは眠らない」日本放送出版協会)
幸い、今の『電脳世界』は『ぬくもりを求めてネットに参加する人』も満足できていそうである。ただ、「暴力装置」であることは昔から変わらない。『こんな便利なもの』は彼が「ネット・バイオレンス」の脚本を書いたときよりも広まった。彼は『このぬくもりのない世界で対話するのはこりごりだと思い、自ら決別することにした』らしい。同じように言葉の暴力を受けた後にブログを閉鎖してしまった有名な作家もいる。閉鎖の原因が言葉の暴力かどうか分からないが私はずっと読んでいたので残念だった。ブログの移転に伴いトラックバックやコメント欄を閉じてしまった有名な作家もいる。トラックバックやコメント欄を閉じた理由は分からないが、私はその作家の文章だけ読めれば良いのでブログを閉鎖した後にしばらくして他社に移転して再開してくれて嬉しかった。
さて、そんな野沢尚さんのオフィスは2006/10/27から「野沢尚公式サイト」を運営していて、SNSでファン同士が気軽に語り合える場を提供している。また、ブログはコメント欄やトラックバックを閉じていないようである。野沢尚さんは心配しているかもしれないが、今のところは「ネット・バイオレンス」のようなことはなさそうである。あったら閉鎖してしまうかもしれない。ぬくもりを求めて参加している人たちが満足できる状態が続くことを願っている。
書き忘れた。「ネット・バイオレンス」の再放送が見たくなった。夏川結衣さんの人気が増していると思われる昨今、NHKが再放送を検討してくれれば嬉しい。ついでに書くと富田靖子さん主演の「ネットワークベイビー」の再放送も見たい。
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