ちょっと頑張り収入激減?
『利用者負担について』(障害保健福祉関係主管課長会議資料、2005/10/6)を読んで
http://www.wam.go.jp/wamappl/bb15GS60.nsf/vAdmPBigcategory50/7136EF952842475949257098001AE0A0
障害者自立支援法案における利用者負担の月額上限措置について以前から気になっていたことがある。ほんのちょっと働き過ぎると収入が激減(「急減」の方が適切?)しそうなのである。今回はそのことについて書く。
利用者負担の上限額を決定する際、利用者本人の属する世帯の収入等に応じて、「生活保護」「低所得1」「低所得2」「一般」に区分される。それぞれは次の通りである。
- (1) 生活保護:
- 生活保護受給世帯
- (2) 低所得1:
- 市町村民税非課税世帯であって障害者又は障害児の保護者の収入(地方税法上の合計所得金額+障害年金等+特別児童扶養手当等)が80万円以下である者
- (3) 低所得2:
- 市町村民税非課税世帯であって、(2) に該当しない者
- (4) 一般:
- 市町村民税課税世帯
「低所得1」の収入の計算で『地方税法上の合計所得金額』となっていることに注意が必要である。私は「地方税法上の合計収入金額」と勘違いしていた。そんな勘違いをするのは私だけかもしれない。私が以前から気にしているのはそのことではない。各区分の境界でおかしなことが起こるのではないかと気にしている。そこで、試しに計算してみた。
次のケースを考える。
・収入は給与収入と障害基礎年金のみ
・障害基礎年金:794,500円(月額66,208円)
・市町村民税の給与所得金額:給与収入金額−650,000円
・市町村民税の障害者控除:260,000円
・その他の控除は無し
・国民年金保険料:免除
この場合、市町村民税課税世帯になるのは給与収入金額が910,000円(650,000+260,000)になるまでである。低所得1になるのは給与収入金額が655,500円(800,000−794,500+650,000)になるまでである。給与収入によって利用料の上限額を支払った残金がどうなるかを表とグラフにすると次のようになる。
ケース | 給与収入 (年収) |
総収入 (年額) |
総収入 (月額) |
区分 | 上限額 (月額) |
残金 (月額) |
---|---|---|---|---|---|---|
A | 0 | 794,500 | 66,208 | 低所得1 | 15,000 | 51,208 |
B | 655,500 | 1,450,000 | 120,833 | 低所得1 | 15,000 | 105,833 |
C | 656,501 | 1,450,001 | 120,833 | 低所得2 | 24,600 | 96,233 |
D | 770,700 | 1,565,200 | 130433 | 低所得2 | 24,600 | 105,833 |
E | 910,000 | 1,704,500 | 142,041 | 低所得2 | 24,600 | 117,441 |
F | 911,000 | 1,705,500 | 142,125 | 一般 | 40,200 | 101,925 |
G | 957,900 | 1,752,400 | 146,033 | 一般 | 40,200 | 105,833 |
H | 1,097,200 | 1,891,700 | 157,641 | 一般 | 40,200 | 117,441 |
図1 給与収入と残金の関係(障害基礎年金2級) |
ケースCからケースDまでの収入ではケースBよりも残金が少なくなっている。すなわち、給与収入が655,500円を超えて「低所得2」になると770,700円稼ぐまで115,200円分が「ただ働き」のようになってしまう。ケースDを超えるまで働かないと収入が減るので「ただ働き」よりも悲しいかもしれない。
ケースFからケースGまでの残金はケースEよりも少ないばかりか、ケースBやケースDよりも少なくなってしまう。すなわち、給与収入が910,000円を超えて「一般」になると957,900円稼ぐまで働いても302,400円(957,900−655,500)分が「ただ働き」のようになってしまう。ケースGを超えてもケースHまではケースEよりも残金が少ない。すなわち、1,097,200円稼ぐまで働いても187,200円が「ただ働き」のようになってしまう。ケースEを超えたらケースHまでは働かないといけない。
計算する前からこのようになることは予想できたが、私は何か勘違いしているだろうか。専業主婦が扶養家族でなくなるのを避けるためにパートで稼ぎ過ぎないようにする現象に似ている。
ついでに次のケースも計算しておいた。
・収入は給与収入と障害基礎年金のみ
・障害基礎年金:993,100円(月額82,758円)
・市町村民税の給与所得金額:給与収入金額−650,000円
・市町村民税の障害者控除:300,000円
・その他の控除は無し
・国民年金保険料:免除
この場合、市町村民税課税世帯になるのは給与収入金額が950,000円(650,000+300,000)になるまでである。障害基礎年金だけで800,000円を超えてしまっているので低所得1にはならない。給与収入によって利用料の上限額を支払った残金がどうなるかを表にすると次のようになる。
ケース | 給与収入 (年収) |
総収入 (年額) |
総収入 (月額) |
区分 | 上限額 (月額) |
残金 (月額) |
---|---|---|---|---|---|---|
I | 0 | 993,100 | 82,758 | 低所得2 | 24,600 | 58,158 |
J | 950,000 | 1,943,100 | 161,925 | 低所得2 | 24,600 | 137,325 |
K | 951,000 | 1,944,100 | 162,008 | 一般 | 40,200 | 121,808 |
L | 1,137,200 | 2,130,300 | 177,525 | 一般 | 40,200 | 137,325 |
M | 1,140,000 | 2,133,100 | 177,758 | 一般 | 40,200 | 137,558 |
ケースKからケースLまでの残金はケースJよりも少ない。
以上、間違っていたら教えて頂きたい。ただし、「現実的な仮定ではない」という批判は御遠慮願いたい。私は障害者ではないし福祉の職員でもないので現場を知らない。現実的でなくても許して頂きたい。もしも今回の記事で述べたようなことが理論的に起こりうるのなら、利用料上限額の決定の仕組みは改善した方が良い。
強行採決されてしまいました!でも、施行されて黙っている「障害者」はいません。私たち怒りネットは、これから、4月施行阻止を闘っていきます。
通常国会(1月開始)にも、国会前で座り込み・泊り込みをします。極寒の中、ただでさえしんどい「障害者」ですが、命をかけて、将来の「障害者」の未来も背負って、がんばりぬく覚悟です。
しかし、あらゆる「障害」を抱えた人が一堂に会せば、それはもうひとつの、政治勢力となりうる数だと思います。
今は健康でも、将来「障害者」になる人は、五万といらっっしゃいます。
そういう人たちの分も考えた、大いなる問題として、私たちは闘って行きたいと思っています。
今後ともよろしくお願いします。
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by がん (2005-10-29 08:02)
がんさん、残念な結果でした。
自立支援法案は介護保険制度を真似して作っていそうな気がしますから、将来は「月額利用限度額」が設定されるのではないかと思われます。その手始めが介護保険制度を真似した「障害区分判定」です。利用者負担に上限を設けたことで低所得者に配慮しているように見せていますが、もう一つの上限「月額利用限度額」が設けられたら、支援を求めても支援されなくなる可能性があります。自立法案成立後も、まだまだ、厚労省を監視しなければいけないと思われます。
by 正己 (2005-10-29 10:21)
利用者負担の件ですが、計算してみたら「低所得」ってどのくらいの収入の人だろうと言うことになりまして。この収入で障害者を抱えて生活を成り立たせるのはほとんど不可能でしょう、と言うのが我が家で出た結論なんですが。一体どういう世帯を念頭に置いて「低収入」を設定しているんでしょう。やはりこういう面からも現実離れしていると言えるのではないかなぁ、と思いました。
障害者自立基本法の成立は大変残念でしたが、ほとんどニュースにもならなかったと言うのも信じがたいです。でもその日のニュースはほとんど新内閣発足の話で終わっていましたね。ほとんどの人にとってはまだまだ他人事なんだなぁと改めて思い知らされた感じです。
by サラン (2005-11-05 19:47)
サランさん、コメントありがとうございます。
生活を成り立たせるために必要なお金は生活保護基準で考えるのが妥当なのだと思います。税金や利用料などを支払った後でも最低生活保障水準を下回らないようにすることが国の義務で、最終的には生活保護制度があるので生活保護の運用がまともであれば大丈夫だと思いますが、生活保護を使わなくても最低生活保障水準を下回らないようにする、というのが厚労省の考え方だったと思います。実際に保障されるかどうか分かりませんが…。
すると今度は最低生活保障水準が妥当かどうかの議論になりますが、「低過ぎる」という意見もあれば「高過ぎる」という意見もあるようで、難しいです。最低生活保障水準以下の生活になっていれば、生活保護を利用すればいいのですが、役所に拒否されたり、生活保護に伴う不利益が嫌で利用しないこともあるようで…。
「生活を成り立たせるために必要なお金」については考えがまとまりません。ただ、最低生活保障水準で生活が成り立たないのなら、そのことも主張する必要があるのだろうなぁ、と思います。生活保護を受けることによる不利益が問題なら、そのことも主張する必要があるのだろうなぁ、と思います。もちろん、支援を利用することで最低生活保障水準を下回ってはいけませんので、そのことも主張する必要があると思います。そもそも最低生活保障水準まで下がることが問題なのですが…。
ごちゃごちゃと書きましたが、これまで私は「生活が成り立たなくなる」という主張はしてなかったと思いますが、そんなごちゃごちゃとした理由があるからなのです。
共感してないコメントで、ごめんなさい。m(_ _)m
それから、自立支援法成立がほとんどニュースにならなかった件ですが、たしかに多くの人にとって他人事なんでしょうね。その後の増税のニュースでは食いついていたようですが…。そんなものなのだろうなぁ、と思いました。
by 正己 (2005-11-06 00:32)